2023/08/14
ケバ取りテープ起こしの場合、口癖はケバに該当すると判断し、依頼者様からとくだんのご指示がない限り、カットします。いっぽう、方言は、その地方・地域の特有の言葉ですから、もちろん、話されているとおりに文章化をします。
ですが、それが口癖なのか方言なのかが分からなかったら、というのが今回のお話です。
先般、和歌山県の依頼者様からのご依頼の音源のなかに、
「いましに」
という言葉を多用される方がいらっしゃいました。
文脈的に、どうやら口癖のようには感じるのですが、この言葉の意味が分からない。
方言ではないかと、調べてみたところ、どうやら「いましに」という言葉は和歌山弁にはないらしい。
というか、そもそも私も和歌山出身であるため、そんな「和歌山な私」が知らないと言うことは、よほど限られた地域でしか使われない方言なのではないかと、くるくる考えてみたわけです。
作成した文章を見てみると、興味深いことに、「いましに」の前後で、同じ内容のお話を言葉を変えて話している場合が多いという規則性を見つけることができました。
そこで私はひとつの仮説を立てました。
仮説
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「いましに」は、直前または少し前に話した内容を、言葉を代えて同じことを話すときに、それらをつなぐ役割を持っている方言である。
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この仮説に従い、私は、「いましに」の意味を調べてみましたが、やはり見つかりませんでした。
私の7年にわたる作成の経験から、インターネット検索で見つからない言葉は、そもそも聞き間違えているか、その言葉自体がもともと存在しないか、のいずれかです。
ただ、私が聞いても、他のスタッフが聞いても、「いましに」と話している。そのため、聞き間違えているという線は消しました。
そうなると、どうやらこの言葉自体がもともと存在しないのではないかというのが残りました。
ただ、言葉が存在しないといっても、発言者が何度も何度も用いているため、明らかにこの言葉は存在する。そんなに何度も言い間違えたりはしないはずだ。もしかして、言葉を勘違いして使っていらっしゃるのか。
なんて思っていました。
ふと、原稿全体を見たとき、もう1つの規則性に気が付きました。
この「いましに」に加え、どうやら、もう1つの言葉を、よく使っていらっしゃるのです。
その言葉は、
「今、言うた節(ふし)に」
でした。
これでピンと来ました。
これは口癖だ。それも少し方言交じりの口癖だ。
そして、「今、言うた節(ふし)に」と「いましに」は同義語だ、と。
そうです。
つまり、「いましに」は、「今、言うた節(ふし)に」をすごく早口で話している言葉であり、「今、言うた節(ふし)に」、つまり、「今言ったように」の方言だったんです。
そういえば、「今、言うた節(ふし)に」という言葉、方言っていうほどではないかもしれませんが、和歌山のほうで、話す方がいらっしゃるにはいらっしゃいます。
今回は、口癖であり、方言であり、そして早口でありと、3つの要素が入っていたことによって、なかなか強敵だったようです。
でも結局、答えがわかって、原稿は納得の完成度。しっかり依頼者様にお届けいたしました。