2023/08/14
生成AIを用いてデプスインタビューの内容を横断的に分析する際、一つの大きな問題があります。
とある製品についてのデプスインタビューを30名に行った場合を例に説明します。
デプスインタビューは定性調査であり、定性調査の本質から考えると、
1,対象者それぞれの文脈・背景によって「同じ事象」が全く異なる意味を持つ
ある人にとっては「製品の特定部分」が魅力的に感じられる一方、別の人にとっては煩わしさを感じる部分であるかもしれません。さらにまた別の人には無関心でまったく気にならない可能性もあります。
こうした「同じ部分をどう認知するか」に個別性があるからこそ、定性調査ではヒアリングした文脈・理由とともに深く掘り下げることが重視されます。これをせずに、すべてのデプスインタビューを十把一絡げに横断して分析する行為は、定性調査ではなく、むしろアンケートなどの定量調査になってしまいます。
2,生成AIが“定量的指標”を強く求めすぎると、デプスインタビューの豊かな多様性が失われる
たとえば、生成AIに「強みと弱みを分かりやすくまとめて」と尋ねると、多くの場合「大多数の参加者の意見」を平均化・要約した回答が返ってきがちです。
その結果、「最も声が大きい」または「最も多い意見」に偏ったり、「一見わかりやすい結論」だけがピックアップされてしまい、少数だが重要な示唆を見逃したり、意味のある微妙なニュアンスを失うリスクがあります。
3,定性調査は「多面性を引き出す」ための解釈プロセスが重要
デプスインタビューの強みは、発言者の文脈(その人の体験や考え方)を踏まえたうえで、「なぜそう感じるのか」「その背景には何があるのか」を掘り下げられる点にあります。
生成AIが返す要約はあくまで“テキスト的”な表層にとどまりがちで、「どの角度・視点から見るか」という分析者自身の切り口や洞察が関与しにくく、結果的に、調査デザインや分析プロセスの巧拙が大きく作用する定性研究のエッセンスを取りこぼしてしまう可能性があります。
AIは定性分析で考えるヒントを与えてくれるサポーターであり、中心となるのはあくまでも「インタビューを読んで気付いたことを深掘りしていく」人間の思考プロセスです。
「問いを言語化しておく」「AIには要約やキーワード抽出などの補助をさせる」「AIからの追加視点はあくまで参考意見として扱い、自分が納得するまで考える」というフローを心掛けると、分析者の思考が止まらずに済みます。